第二回 株式会社大橋洋食器
最終更新日:2020年1月17日
インタビュー概要
株式会社大橋洋食器は、130 年以上もホテルやレストランに食器を納めてきた老舗企業です。近年は新潟のさまざまな伝統技術を用いた独自のテーブルウェアブランド<OHASHI>を立ち上げ、新潟県内だけでなく、国内有数のホテルやリゾート施設で採用され、海外への輸出も年々伸びているようです。今回はその仕掛け人であり、先頭に立って社内改革にあたった星野太志社長(38歳)にインタビューしました。
インタビュー相手
株式会社大橋洋食器
取締役社長 星野太志(ほしのたいし)さん
「創業130 年超の会社を途絶えさせるわけにはいかない」
私は神奈川県の生まれで、大橋洋食器に入社することを決めて新潟に移住しました。それまでは大手通信会社のNTTドコモに勤め、広報を担当していました。すべてのきっかけは2011 年に発生した東日本大震災でした。被害のあまりの大きさを目の当たりにする中で「人生はいつどうなるかわからない」という思いが生まれ、自分の人生について考えるようになりました。そんな時、当時の大橋洋食器の社長をつとめていた義父が他界。妻の実家の家業である大橋洋食器に入社をするか、それまでの仕事を続けるかの選択を迫られる状況になりました。決断するまでに悩み葛藤もありましたが、「創業130 年を超える歴史ある会社を途絶えさせるわけにはいかない」「人生は一度きりだからこそ、これは自分の運命なのかもしれない」と、チャレンジすることを決心しました。
「本当に私たちがやるべき仕事なのだろうか」
新潟に移住して最初に始めたことは、新潟を知ることでした。すると、本当に注目すべき、世界に誇れる技術がたくさんあることがわかったんです。新潟の漆器、燕の金属加工、加茂の桐箪笥といった工芸技術もそうですよね。多くの職人さんが、伝統の技を受け継ぎ、守り続けていることを知ったのです。一方、自分たちを振り返ってみると、極端な表現をすれば「大手メーカーの食器を仕入れて販売する」だけでした。新潟に根ざす企業として「本当に私たちがやるべき仕事なのだろうか」と考えるようになりました。他県から移住してきたからこそ、より強く感じるものがあったんだと思います。
「とにかく前に進むための何かが必要だった」
そこで、新潟が世界に誇る素晴らしいモノづくりの技術を積極的に取り入れた、自社企画・開発のオリジナルテーブルウェアブランド<OHASHI>を立ち上げました。当然、これまでの「仕入れて売る」から新商品の企画・開発となりますから、仕事内容は大きく変わります。社員の多くはとまどったと思います。実際、立ち上げ当初は上手くいかず、トラブルの連続でした。それでも、震災後の混沌とした雰囲気が残り、前社長という大黒柱を失ったばかりの会社には、とにかく前に進むための何かが必要だと感じていたんです。
「地域の伝統や文化や反映したテーブルウェア」
オリジナルブランドを立ち上げてまもなく、「ガストロノミー」という言葉が注目を集めるようになりました。料理を通じて地域の伝統や文化の魅力を表現しようという動きのことで、料理に使うお皿にも「地域の文化や日本の伝統を反映したものを」とこだわりを見せるレストランやホテルが増え始めたのです。その影響もあり、私たちの商品も少しずつ取引先が広がりました。
今では<星野リゾート>の各施設や<資生堂>が運営するレストランにも納入しています。今年は外国の方をもてなすのにふさわしい調度品ということで、<帝国ホテル>からも令和の新天皇陛下の即位行事で来日した国賓をもてなすための器としてオーダーをいただきました。これは本当に大きな成果で、喜ばしい事例となりました。私たちに器を供給してくれる作家さんや職人さんたちも「まさかそんなところで自分たちの器が使われているなんて」と、本当に喜んでいただけました。
「シェフが実現したい一皿、思い描く世界を実現する仕事」
<帝国ホテル>の事例のように、私たちはシェフの声を形にするオーダーメイドの器作りも行っています。自社に工場があるわけではありませんが、焼き物だけではなく、ステンレスといった金属、木製品、ガラス、アクリルなど、さまざまなジャンルの職人さんや工場と連携することで、シェフの思いや実現したい一皿に必要なテーブルウェアを形にすることができます。小さな窯元さんが手掛けるものや伝統技術を使った器作りは大量生産できるものではありません。むしろオンリーワンともいえるものだからこそ、価値を感じていただける機会が増えています。
「伝統や文化を次世代へつなぐ橋渡し」
社員にもよく話をするんですが、ただお皿を売っているだけと考えないでほしい、私たちの仕事は、その先にいろいろな人の人生があって、それに影響を与えることができるんだ、と。<OHASHI>のテーブルウェアが、国内外のレストランやホテルでもっと使ってもらうことで、職人さんの子どもたちが仕事を継ごうと考えてくれるかもしれない。伝統技術が後世にずっと続くかもしれません。レストランも同じことです。外国人観光客が増え、器を含めたおもてなしが重要視されてきているため、レストランやホテルとは、もっとお客様に喜んでもらえるお店作りを一緒にしていけると思っています。大げさな表現かもしれませんが、私たちは伝統や文化を次世代へつなぐ橋渡しの役割を担っています。私はその使命感を持っていますし、社員もやりがいを感じてくれていると信じています。
「新潟と東京を行き来する働き方」
私たちは新潟の企業として、新潟の素晴らしい技術を使って新しいテーブルウェアを作り、それを発信・販売するという仕事をしています。そのため、多い時には月の半分ぐらいは東京へ行きます。社員も同様で、少しずつ首都圏での取引が増えるにつれ、新潟と東京の行き来が増えています。新潟にいながら、都会の最先端の流行にも触れられる仕事です。これは一つの魅力だと考えていますし、こうした情報は職人さんたちにもフィードバックしています。個人的にはもっとこうした働き方ができる企業が増えたらいいなと思いますね。
「新しい働き方を提案する側に立てれば」
働き方の一つとして、暮らしや職場は新潟で、必要に応じて東京や全国各地へ出掛けるスタイルがもっとあっていいと考えています。新潟と東京は意外と近いのに、文化は大きく異なりますよね。どちらにも偏らずバランスを保つことが重要で、それぞれを客観的に見ることができます。一度外に出ることで、新潟の良さを再認識することってありますよね。さらにI ターンした私としては、「住」としての新潟市は本当に素晴らしいところたと感じています。インフラは整っていて東京にも出やすく、子育てにも向いている環境だと思います。だからこそ、私たちはもっと東京や世界を相手に仕事ができるような企業になりたいですし、新しい働き方を提案する側に立てるように頑張っていきたいです。
「新潟にいても、世界に通用する仕事ができる」
これから就職を考える人たちが、新潟よりも、まず東京や海外へ目がいってしまう気持ちはよくわかります。けれど、実は自分たちのすぐ近くにも世界に誇れるものがたくさんあることを知ってほしいです。もっともっと、自分の核となる生まれ育った土地のことを知るほど、選択肢も広がるはずです。その上で、自分の将来や進路のことを考えてほしいですね。新潟にいるからこそ実現できるものがあると信じていますし、新潟にいても世界に通用する仕事ができると考えています。そのことを示せるような会社でありたいですね。
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